初音ミクでフォーレのレクイエム(その3)

(何事もなかったかのように前回の続き)

本題のフォーレの『レクイエム』の話。
世上、『世界の三大レクイエム』と呼ばれるものがありまして、このフォーレの曲はモーツァルトヴェルディのものと並び称されています。もちろん、こういうのは最初に言い出した人の感想にしか過ぎないけれどw、それが定着するくらい人気が高いってことですね。当然ボクは数あるレクイエムの中でもフォーレのものが一番好きです。

『レクイエム』というキリスト教社会にとって非常に重要で、形式がほぼ決まっている伝統的なジャンルです。葬儀という厳かな行事に使用する曲ですから当然ですね。

だけどフォーレはこのジャンルにおいても、個人の意思・嗜好をはっきりと明確に込めてきました。それが「怒りの日」という、最後の審判の場面のカット。

最後の審判とは、そのときに死者が生前の行いを審判され、天国に行くものと地獄に堕ちるものにわけられるというモノ。キリスト教において非常に重要なテーマです(キリスト教でもいくつか解釈が分かれるけど、キリスト教に限らず、天国と地獄に分けられるという話は古今東西語られてきました。だから生きているときに悪いことをするなよ、ってことですね)。

でも、フォーレにとって『死』というものはそういうものではなかったんですね。

「私のレクイエム……は、死に対する恐怖感を表現していないと言われており、なかにはこの曲を死の子守歌と呼んだ人もいます。しかし、私には、死はそのように感じられるのであり、それは苦しみというより、むしろ永遠の至福の喜びに満ちた開放感に他なりません。」

「私が宗教的幻想として抱いたものは、すべてレクイエムの中に込めました。それに、このレクイエムですら、徹頭徹尾、人間的な感情によって支配されているのです。つまり、それは永遠的安らぎに対する信頼感です。」

カッコイイ〜。 フォーレは生涯を通して革命家といった感じは全然ないんですが、随所に(教会の権威のような)権力に媚びない姿勢が表れていて、それは彼の作曲にも反映されているのがカッチョいいと思うわけです。


こういう背景知識はともかくw、とにかくフォーレク(フォーレの「レクイエム」は省略してこう呼ばれる)は美しい曲です。ぜひとも世界中の人たちに聴いてほしい、と思うわけですよ。そんなわけで、ボクが持っているフォーレクCD(全部で20枚ぐらい)の中からお勧めのものをいくつか紹介したいと思います。
と、その前に。フォーレクの楽譜は1901年に初めて出版されますが、それは第3稿と呼ばれ、フルオーケストラで演奏できるようになっています。しかし、元々のフォーレの構想ではもう少し小さな規模での演奏を考えていて、それが1893年頃に完成した第2稿と呼ばれるものです。(ちなみに第1稿は1888年初演時のもの。)
「フルオケの楽譜じゃないと売れないよ〜」という出版社からのリクエストに答えて改訂したのが1901年のモノなんですが、それはオーケストレーションが苦手な(やる気のない)フォーレに代わって弟子の手が入っているのではないか言われています。
というわけで、フォーレ好きの人たちが「失われた1893年の頃の楽譜を復活させよう!」ということで研究し、1893年版のものがいくつか発表されています。有名なのが(ネクトゥ/ドゥラージュ版)と(ラター版)です。そんなわけで、今入手できるCD音源では

  • 第3稿(1901年)
  • 第2稿(1893年頃) ラター編(1984年発表)
  • 第2稿(1893年頃) ネクトゥ/ドゥラージュ編(1988年発表)

があるわけです。音楽的な素養のある人にとっては結構重要な違いらしいんですが、実はボクはよく違いが分からない…。ニュアンスは違うんですがね。ぶっちゃけ好みの問題だと思います…。
あと演奏の重要な違いとして、「ボーイソプラノを使うか、女性ソプラノ歌手を使うか」というのがありますね。昔は教会の聖歌隊は男性だけだったのでそれに従うか、声域や技巧上の問題で変わります。これまた好みによります。それぞれに良さがありますから。
以下お勧めの音源をご紹介していきたいと思います。はてなダイアリーではamazonにリンクを張る方法があるみたいなのでそれを利用させてもらいます。


フォーレ: レクイエム

フォーレ: レクイエム

まず1枚目はこのCD。ボクが一番最初にフォーレクに触れた音源で、「コルボ・ベルン響」と言えばフォーレクの音源ではもっとも有名なものでしょう。1972年にアナログレコードで発売されましたが、以来何度も再販を重ねています。それだけの価値はあると思います。これは第3稿1901年版ですが、アラン・クレマン少年のボーイ・ソプラノによる"Pie Jesu"は聴いているだけで天国に連れていかれるような、という表現がよくされますw
ちなみにボクはこのCDを親にプレゼントしたんですが、「早く死ねってことか!」と怒られましたw せっかく親孝行しようと思ったのに〜。子の心親知らずですね。


REQUIEM OP.48/MESSE DES P

REQUIEM OP.48/MESSE DES P

現在ではこのCDをフォーレクのベストに挙げる人は(マニアでは)かなり多いと思います。第2稿1893年版の演奏。指揮者のヘレヴェッヘ氏は古楽演奏では権威のある人で、このCDも繊細優雅で、まさにフォーレって感じです。第2稿の簡素な響きとよくマッチしている素晴らしい演奏です。これもよく聴いたなぁ。


フォーレ:レクイエム(189

フォーレ:レクイエム(189

これもコルボ指揮の演奏ですが、こちらは第2版です。ベルン響との1枚は今となっては重厚さを感じるのですが、第2版の演奏は枯れた味わいがたまらないですね。上記ヘレヴェッヘの第2版とともに愛聴しています。同時収録されてる曲も素晴らしい。


フォーレ:レクイエム

フォーレ:レクイエム

ジュリーニ指揮の第3版演奏。とってもスローテンポ。ねっとりしていますw これは有名ソプラノ歌手キャサリン・バトル女史の"Pie Jesu"が美しいですね。こちらには小澤征爾指揮「ペレアスとメリザンド」「パヴァーヌ」が収録されていて、その意味でもたいへんお得でして、このCDにはクラシック初心者だったときにたいへんお世話になりましたw


ホントはもっとお勧めしたい音源がありますが、、、キリがないので。正直、何を聴いてもフォーレク自体が素晴らしい曲なので、どの音源でも聴いてもボクは不満がないのです。まだフォーレクを聴いたことがない人はぜひとも!



最後の最後に、タイトルの初音ミクのことを。初音ミクフォーレクを歌ってもらった作品はたくさんあるのですが、ボクも作ってみました。初音ミクを使った最初の曲にどうしてもフォーレクをやりたかったのです!


D
絵はデイジーさん(ピアプロのページ:http://piapro.jp/tinydaisy)の絵を使用させていただきました。こんな素晴らしい絵を自作動画に使用させていただき、大感謝です! ありがとうございました〜